コーヒーの精製方法とは?風味の違いと“好み”が見つかる選び方を焙煎人が解説

コーヒーの精製方法とは?風味の違いと“好み”が見つかる選び方を焙煎人が解説

コーヒー豆の袋に書かれている「ナチュラル」や「ウォッシュド」という言葉。これは何だろう?と思ったことはありませんか?

実はこれ、コーヒーチェリーから生豆を取り出す「精製方法」の名前です。この工程こそ、コーヒー豆が持つ酸味や甘味、香りを引き出し、その個性を決定づける最も重要な要素の一つなのです。

この記事を読めば、それぞれの精製方法がもたらす風味の違いが明確になり、まるでワインを選ぶように、自分の好みにぴったりのコーヒーを見つけられるようになります。

一目でわかる!コーヒー精製方法の違いと風味マップ

まずは、この記事の要点をまとめた風味マップで全体像を掴んでみましょう。主要な精製方法が、風味や製造工程でどう違うのかを視覚的に理解することで、後の解説がより深く頭に入ってきます。

ウォッシュド ナチュラル ハニー スマトラ式
酸味 甘味 コク 香り
💧: 生産工程で使用する水量(0=不使用/1=少/2=中/3=多)
⚠️: 生産工程の作業負担・リスク(Low < Medium < High)

ウォッシュド

果肉除去 → 水洗 → 乾燥

水使用量: 💧💧💧 / 作業負担: Medium

クリーンで爽やかな酸味、透き通った後味

主な産地: 中米・東アフリカ

ナチュラル

天日乾燥(果肉付き)

水使用量: 0 / 作業負担: Low–Medium

甘味とフルーティーな香りが際立つワイルドな味わい

主な産地: エチオピア・ブラジル

ハニー

果肉除去 → 乾燥(ミューシレージ残し)

水使用量: 💧 / 作業負担: High

蜂蜜のような甘さとコクが調和

主な産地: コスタリカ・中米

スマトラ式

半水洗 → 二段乾燥

水使用量: 💧💧 / 作業負担: Medium–High

重厚なボディとスパイシーな香り

主な産地: インドネシア

この図で風味の傾向を大まかに掴んだら、それぞれの精製方法が持つ奥深い世界を一つひとつ見ていきましょう。

コーヒーの個性を生む、基本の精製方法4選

ここからは、スペシャルティコーヒーの世界で基本となる4つの精製方法を詳しく解説します。それぞれの特徴を知り、「どんな気分の時に飲みたいか」「どんな味わいが好みか」を想像しながら読み進めてみてください。

ウォッシュド(水洗式):クリーンで爽やかな酸味

ウォッシュドは、収穫したコーヒーチェリーの果肉を機械で取り除いた後、水槽に浸けてミューシレージと呼ばれる粘液質を洗い流す製法です。工程に多くの水を使うことから「水洗式」とも呼ばれます。

発酵による影響が少ないため、雑味がなく、そのコーヒー豆が本来持つクリーンな酸味や風味がストレートに際立ちます。

  • 風味: 透明感、爽やか、キレのある酸味、すっきりとした後味 

  • こんな人におすすめ: 「スペシャルティコーヒーの繊細な酸味を楽しみたい」「朝に飲むような、すっきりしたコーヒーが好き」という方

ナチュラル(非水洗式):果実感あふれる華やかな香り

ナチュラルは、コーヒーチェリーを果実のまま天日などで乾燥させる、最も古くからある製法です。乾燥中に果肉の甘味や成分がゆっくりと種子(豆)に浸透していきます。

そのため、完熟したフルーツや赤ワインを思わせる、華やかで独特なフレーバーが生まれます。同じ産地の豆でも、ウォッシュドとは全く違う個性的な一杯になります。

  • 風味: フルーティー、ワインのような、華やかな香り、豊かな甘味 

  • こんな人におすすめ: 「フルーティーな香りのコーヒーが大好き」「コーヒーで新しい驚きを体験したい」という方

ハニープロセス:ウォッシュドとナチュラルの“いいとこ取り”

ハニープロセスは、果肉だけを取り除き、ミューシレージを残したまま乾燥させる製法です。ミューシレージの甘さが豆に移ることで、その名の通り蜂蜜を思わせるような、まろやかな甘味と質感が生まれます。

ミューシレージを残す量によって、すっきりした風味の「イエローハニー」から、より濃厚な甘味を持つ「レッドハニー」「ブラックハニー」へと風味が変化するのも面白い点です。

  • 風味: まろやかな甘味、滑らかな口当たり、バランスの取れた風味 

  • こんな人におすすめ: 「酸味は強すぎず、甘味とコクを感じたい」「飲みやすさと個性的な風味の両方を求めたい」という方

スマトラ式:大地を思わせる個性的でスパイシーな風味

主にインドネシアのスマトラ島で行われている、高温多湿な気候に適応したユニークな製法です。一度パーチメントを脱穀してから再度乾燥させるという、二段階の乾燥工程を経るのが最大の特徴です。

このプロセスにより、独特の深い緑色の生豆となり、ハーブやスパイス、大地を思わせるような、力強く野性的な風味が生まれます。

  • 風味: 大地の香り、ハーブ、スパイス、力強いコク 

  • こんな人におすすめ: 「どっしりとして飲みごたえのあるコーヒーが好き」「他にはない個性的な一杯を探している」という方

コーヒーの新たな可能性を拓く、注目の精製方法

コーヒーの世界は常に進化しており、生産者たちはより良い風味を求めて新しい精製方法に挑戦し続けています。その代表格が「アナエロビック(嫌気性発酵)」です。

これは、密閉したタンクの中で酸素を遮断してコーヒーチェリーを発酵させる方法。これにより、シナモンやラム酒、トロピカルフルーツのような、今までにない複雑でユニークな香りを生み出すことができます。

Kurohige Coffeeでは、こうした新しい精製方法の豆を実験的に取り扱うこともあります。見かけたら、ぜひその挑戦的な味わいを体験してみてください。

風味から選ぶ精製方法チャート

「いろいろな種類があるのはわかったけど、結局どれが自分に合うんだろう?」と感じるかもしれません。そんな時は、自分の「好み」から逆引きできる、このチャートを使ってみてください。

すっきりした酸味が好き?

フルーティーで甘い香りが好き?

まろやかな甘味とバランスを重視?

 

チャートの質問に答えていくだけで、自分にぴったりの精製方法が見つかります。ぜひ、次の豆選びの参考にしてみてください。

焙煎士の視点:精製方法が焙煎に与える影響

実は、精製方法によって豆の硬さや含まれる糖分の量が違うため、私たち焙煎士は焙煎のプランを豆ごとに微調整しています。コーヒーの個性を最大限に引き出す、舞台裏の仕事です。

例えば、ナチュラルプロセスの豆は果実由来の糖分が多く、熱を加えると焦げやすい傾向にあります。そのため、私たちは火力のコントロールを通常よりさらに繊細に行い、豆の中心までじっくりと熱を伝えながら、豊かな甘い香りを引き出していきます。こうした精製方法への深い理解は、スペシャルティコーヒー協会(SCA)が定義する品質基準を満たす上でも欠かせません。

このように、一杯のコーヒーがあなたの元に届くまでには、生産地での精製から焙煎に至るまで、様々な工夫が凝らされているのです。

まとめ:精製方法を知れば、コーヒーはもっと面白い

精製方法という「ものさし」を持つことは、コーヒーを選ぶ「解像度」を一気に上げてくれる、魔法のようなツールです。

「今日はすっきりしたいからウォッシュドにしよう」「週末はじっくりナチュラルを楽しもう」というように、気分やシーンに合わせてコーヒーを選ぶと、毎日の一杯がもっと豊かで、もっと面白くなるはずです。

ぜひ次の休日に、いつもと違う精製方法のコーヒーに挑戦してみませんか?きっと、新しいお気に入りの一杯が見つかるはずです。